磁歪
磁気モーメントが、ある間隔で平行に並んでいる状況を考えます。
- ↑ ↑ ↑
- → → →
(矢印が磁気モーメント)
上図では、1も2も各磁気モーメントが等間隔に配置されていますが、実際には、磁気モーメント間には、1の場合斥力が、2の場合引力が作用します。 その結果、実際の長さは次のようになっているはずです。
- ↑ ↑ ↑
- →→→
上の例に示される通り、磁気モーメントを同方向に並べると、その向きに応じて、歪を生じます。大雑把にいえば、これが磁区が歪む理由です。
再び磁区
強く磁化した状態とは、各磁区の磁気モーメントの方向がそろった状態です。このとき、各磁区の歪の方向に磁性体全体も歪みます。
一方、磁化していない状態とは、各磁区の磁気モーメントがバラバラな方向を向いている状態です。このとき、各磁区の歪の方向もバラバラになるので、全体としては歪は打ち消されてしまいます。
これらの理由から、磁性体全体の磁化に応じて磁性体全体にも歪みが生じます。
補足
実際には、磁気モーメント間の磁気クーロンポテンシャルではなくて、スピン間の交換相互作用のほうが強いので、上記の説明はそのままでは正しくありません。もう少し、ややこしくなります。ただ、イメージは、そんなに違ってはいません。
要は、磁化方向に応じてに歪む、ということです。
ピエゾ磁気効果の生成メカニズムについて書いてみることにします。
応用目的ならば、メカニズムを知らなくてもよさそうに思いそうです。
ですが、いくつかの問題を考える上で、メカニズムについて知っておくことは必要です。
たとえば、ピエゾ磁気効果を特徴付ける比例定数(応力磁化係数)の値を具体的な物質について決定する、というのは、応用上重要な問題の一つですが、なぜそれが難しいのか、といったことを考える上で、メカニズムについてある程度知っている必要があります。
ピエゾ磁気効果(歪→磁化変化)よりも、その逆の磁歪(磁化→歪)のほうが直観的に理解しやすいので、ここではまず磁歪について説明します。
磁区
磁化を持った強磁性体は、磁区と呼ばれる小領域にわかれています。各磁区の内部では、磁化のおおもとである電子のスピン磁気モーメントは一定方向に揃っています。
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上の図のようなイメージです。矢印がスピンの向きです。各磁区が、それぞれひとつの磁化方向で特徴づけられます(上の場合なら、左の磁区から順に、右向き・上向き・下向き・左向き)
各磁区内でのスピンが同一方向を向く理由は、そのほうがエネルギーが小さいからです。 ある温度(キュリー点)以下だと、勝手に同一方向にそろうのです。だから、自発磁化と言われます。
自発磁化を持った磁区は、自発磁化を持っていない状態(つまりキュリー点温度より温度が高い場合)を基準とすると、歪んでいます。その歪み方は、磁化の方向に依存します。
ではなぜ、磁区は磁化の方向に応じて歪むのか、それを次に説明します。(つづく)
参考
>>
強磁性体の物理 上 (1) (物理学選書 4)
ピエゾ磁気効果と磁歪の量的関係は、熱力学を応用することで大雑把に導くことができる。
磁化した弾性体の内部エネルギー(U)の全微分(dU)は、熱力学の第一法則などから、 次の式で与えられる:
- dU = TdS - pdV + HdI
ここで、T, S, p, V, H, I は、それぞれ温度、エントロピー、圧力、体積、磁場、磁化を表わす(ほんとうは圧力でなくて応力、体積ではなく歪を用いるのが適切ですが、添え字を書くのが面倒なので、上記で代用)
この式を、(ルジャンドル変換して)自然な変数をT,p,Hに置き換える:
- dG = - SdT + Vdp - IdH
ただし、Gはギブスの自由エネルギー(=U-TS+pV-HI)である。
T,p,H の関数 G の関数の全微分は、次で与えられる:
- dG(T,p,H) = (∂G/∂T)p,HdT + (∂G/∂p)T,Hdp + (∂G/∂H)T,pdH
偏微分の順序は(たちの悪い関数でなければ)交換できる:
- (∂(∂G/∂p)T,H/∂H)T,p =(∂(∂G/∂H)T,p/∂p)T,H
G がギブスの自由エネルギーであることを用いると、
- S = -(∂G/∂T)p,H
- V = (∂G/∂p)T,H
- I = -(∂G/∂H)T,p
この2つめと3つめを、微分の順序が交換可能であることを示す関係式に代入すれば、次の関係式が得られる。
- (∂V/∂H)p,T = (∂I/∂p)H,T
左辺は、磁場が変化した場合の体積変化、すなわち体積磁歪であり、 右辺は、圧力変化にともなう磁化の変化、すなわちピエゾ磁気効果である。